大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(う)1607号 判決

被告人 五十川茂 外二名

〔抄 録〕

被告人小島の弁護人Aの控訴趣意第一点。

昭和二十九年六月十六日附起訴状をみると、「被告人五十川は東京都豊島区池袋二丁目千百五十八番地に於て社交喫茶黒猫を経営する者、被告人小島は同店の支配人、被告人川野はそのバーテン……であるところ、昭和二十九年五月二十日午後八時頃来客の遠間昌三(当二十二年)が酔余の勢により「神津牧場の伜だ」と云い出したことを軽信し、被告人等はいずれも偶々同夜客店の少い折柄右遠間を利用し売上金額を稼ごうとし擅に飲食物を提供し代金五万円に上るとしてその支払を請求したが、遠間は所持金がなく支払うことができないと拒まれるや

第一、被告人等(原審相被告人田中島を含む)は相共に翌五月二十一日午前一時三十分頃より午前二時頃右黒猫二階並に池袋二丁目千百七十六番地黒猫の寮二階女給部屋に於て右遠間に対し口々に「金がなくて飲むとはなんだ、太い野郎だ云云」と怒鳴りつけ、同人の顔面、頭部、上半身等を手拳及び棒切等で殴打する等の暴行を為し因て同人に対し治療約一週間に亘る頭部顔面打撲傷、上半身挫創、左前膊顔面火傷等の傷害を負わせたが、該傷害はいずれの者の行為によるものであるか知ることができない。

第二、(一)被告人等三名は同時刻頃右黒猫二階に於て共同して遠間を裸にし頭から水を浴びせかけて以つて数人共同して暴行し

たとの公訴事実を掲げ、その罰条として、右第一事実につき刑法第二百七条第六十条第二百四条、第二の(一)事実につき暴力行為等処罰に関する法律第一条刑法第二百八条を記載してある。しかし原審第七回公判で裁判官が訴因、罰条、罪名の変更を命じたので、検察官は之に応じて訴因等を変更したから、被告人等三名の各罪名中「暴力行為等処罰に関する法律違反」は削除されてしまうし、訴因も前記公訴事実第一及び第二(一)を併合して

第一、被告人等(原審相被告人田中島を含む)は外二名と共謀の上翌五月二十一日午前一時三十分頃より午前二時頃右黒猫社交喫茶二階並びに池袋二丁目千百七十六番地黒猫の寮二階に於て右遠間に対し口々に「金がなくて飲むとはなんだ太い野郎だ、飲んだ金はどうするんだ」等怒鳴りつけ、同人の顔面、頭部、上半身等を手拳及棒切等で殴打し又同人を捕えて裸にし頭から水を浴せかける等の暴行を為しよつて同人に対し治療約一週間に亘る頭部、顔面打撲傷、上半身挫創、左前膊、顔面火傷等の傷害を負わせ

というに変更され、罰条も変更後の第一事実に関し刑法第二百四条第六十条のみに変更されていることは明白である。而してこの訴因及び罰条の変更は公訴事実の同一性を害するとは認められないし、その他訴因及び罰条の変更は適式に為されなかつたものとすべき根拠は認められない。原判決がその判示第一に於て被告人等三名及び原審相被告人田中島等の共謀に基く遠間昌三に対する傷害の事実を判示したのみで、暴力行為等処罰に関する法律違反の事実に触れるところがないのは所論のとおりであるが、前記のように既に適式に訴因及び罰条が変更されている上からには、傷害の事実について判示すれば十分であり、更に所論のように共同暴行の事実について有罪又は無罪の判断を与える必要は存しない。所論は原判示事実と起訴状記載の公訴事実とを対照したのみで原審公判廷に於ける訴因及び罰条の変更があつた事実を閑却し、かかる変更が為されてはいないものとの前提に立つて主張するものと認められ採用できない。

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